第1章

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まだ言葉の途中の繭子の頬を、千鶴が左手の人差し指でつんつんつつきはじめたのだった。 言葉を止め、気恥ずかしさと嬉しさに困ったような顔をしている繭子にかまわず、千鶴はつんつんを続けている。 「な、なんですかって」 「いや、あいかわらずほっぺがぷくぷくだなって思って」 「……どうせしもぶくれのおたふく顔ですよ」 「いいじゃん、しもぶくれ。わたし好きだよ」 千鶴は唐突につんつんをやめて、寒いね、早くお店入ろ、と繭子を置いて歩きだす。 その背中が照れているのを感じて、繭子は胸と頬がじんわり熱くなった。 遅れないようにあわてて歩きだす。 「電車混んでた? 指定席買えた?」 まだ照れくさいのか、前を向いたまま千鶴が訊いた。 「買えたよ。となりの席はきれいなお姉さんだったし、快適な旅だったよ」 「…………」 「でも千鶴ほどきれいじゃなかったよ」 「この子はもう」 繭子はふふっ、と笑う。千鶴もつられて笑う。 二人の息は白くて、クリスマス前の街はカラフルに明るくて、夜空は何色だかわからない。 繭子はそっと千鶴の手を握った。 「……こら、人前だよ」 「人のこと言えないと思いますぅ」 繭子が冗談ぽく言うと、千鶴はふうぅ、とため息をついた。
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