#03.黄泉平坂アリス

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#03.黄泉平坂アリス

 文化祭は二日にまたがり、去年とは少しようすが違った。  去年はわたしたちと太刀掛くんたちが同じ日にライブをおこなっていたのだけど、今回、太刀掛くんたちは一日目に、わたしたちは二日目にやることになっていた。ここさんがくるのも二日目だ。  文化祭のステージは体育館と校庭にあって、昼前のこの時間、吹奏楽部の演奏が校庭でおこなわれていた。  見覚えある男子生徒はステージの端でトランペットを吹き鳴らしている。普段はシトラスベイビーにいるだろうによく合わせられるものだと感心する。たしかシトラスベイビーも今日の夕方からのライブに参加するはずである。太刀掛くんたちの前座だ。  明日、わたしたちはここさんの前座だった。  ――夕刻、体育館は秋が深まったこの時期とは思えないくらい暑かった。  ステージにはトートーがいる。いつものオリジナルTシャツに下はジャージを穿いて腰ではジャージの上衣の袖を結んでいた。おでこに描かれたト音記号は今日もみごとな曲線を見せている。一度だけ描いている現場に遭遇したけど、ホントによどみなく描いてのけたので驚いた。  歌うと思ったのに演説をはじめて、太刀掛くんたちの時間がなくなりそうだとヒヤヒヤする。まさかそれを狙ったのかと思ったけど、ホントに居心地わるそうな、照れくさそうなそぶりで頭をかいたので、さすがに考えすぎかとわたしは反省した。
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