#03.黄泉平坂アリス

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 一曲目の演奏が始まって、その演奏が終わって、わたしは鼻白んだ。  ふん、何が『あまのじゃくなとこがある私』だよ。  よくいうよ、あんなのあまのじゃくな人間に書ける詞じゃないよ。  なんてまっすぐなんだろう。この子の歩く道の上にはいままでの一度も『立ちはだかる壁』や『転倒を誘うくぼみ』とか『足を取るツタ』なんてものはなかったのではないか。  いいや、そんなはずはないのだ。  誰だって有形無形を問わない有象無象に邪魔されながら生きているはずなのだ。トートーの音楽からあふれているのは圧倒的な力づよさだった。壁は壊し、くぼみはさらに地面を踏み切るスターティングブロック代わりにして、ツタはすべて引きちぎっていくような、そんな歌だった。  ちょっとだけ、太刀掛くんたちがかわいそうだって思った。  そんなふうに思うことは彼らには失礼に当たるんだろうね。どんなにトートーたちが観客のハートをつかんでいようとも太刀掛くんたちならへっちゃらでやっちゃうんだろうから。  文化祭二日目の夕刻。  空き教室の扉の向こうは花園だった。
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