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足あとからはマシュマロが湧くのだろう。
ヘッドセットのマイクを伝って増幅されたわたしの歌声は生クリームみたいに甘く降りそそぐのだろう。
ドリーミーアリスをつないだアンプからはいま、音波の代わりに幾重ものクレープ生地が飛び出して会場全体を巨大なミルクレープに変えていくはずだ。
――そんな夢のような世界はふっと消える。
バッキングの音が消えて、わたしもまた手をとめる。
この曲のCメロに伴奏はない。無音に放り出されながら、そこでひとり、声をあげるのだ。
小動物を追いかけて夢中で遊んでいるうちに、不意に迷子になったことに気づいた少女のようだった。
この静寂をわたしはおそろしいなんて思わない。
光のない道の上であるならば、自ら輝いて照らせばよいのだと小相木ここあは歌っていたのだ。彼女のその言葉の向こう側には隠しきれないおびえがあって、そのじつ、自身に言い聞かせていたものでもあるのだろう。
対バンのときなんてメじゃないくらいに、強く響かせてやろう。
すばやく深くおなかの底まで息を吸い込んで、いまのわたしの全力をもって――――
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