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景気よく話していたここさんが言葉を急に途切れさす。背後を振り返ると、スタンバイするギターの男のひとりに近づいて耳を傾けた。ふんふん、とうなずいているけれど男が何か話しているそぶりはなくて、会場全体に『この人は何をしているんだ』という空気がただよいはじめる。
マイクの前に戻るや、口をひらく。
「えー、なんだってー!? なんと、驚くべきことにー! ギタリストの彼はもう限界だってー? 頭が割れそうで肩がもげそうで腸はねじれて両ヒザの皿が割れ、クルブシがこなごなだとー!? タイヘンだなー! 担架を、担架をもてー! それにしても代わりはどこかにいないものかぁー!?」
いつもの演技力はどこへやら、ここさんは白々しく棒読みに高らかとそう宣言する。身振り手振りを交えて、教育番組のおねえさんのように辺りを見回している。
「え!? いや俺は別に……」「タイヘンだなー!! 担架をもてー!!」
空気を読まないギタリストを目で制しながらも、少しだけ申しわけなさそうに頭を下げる。おっかなびっくり担架をもってきた先生たちに『え? まじで寝かされるの!?』みたいな顔をしていたギタリストは結局、観念してそこに寝かされた。体育館から退出する。
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