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その間ずっと、おでこのあたりに手をかざして周囲を見回していたここさんはギタリストが消えると同時、「そこのきみ!」と人差し指を向ける。
何を隠そうわたしのほうに。
わたしの目をみて、わたしのことを指している!
ちょいちょいと手まねきまでしている。信じられなくて、呼んでるよってとなりのクルルンに耳打ちする。クルルンは冷静だった。
「いやいや、貴方をご指名でしょうに」
「えー、そ、そ、そん、」
しどろもどろなわたしに発破をかけるみたいに。
「遠慮するならわたくしがいきますわよ?」
「あー! ちょっ、ちょっち待ったぁー!」
クルルンは頬をほころばせて、緊張に身をかたくするわたしを送り出そうとした。
「いってらっ――」その声をかき消さんばかりの大声が背後から聞こえてくる。
「ええい! とめてくれるなお前ら!」
振り返ると観客席の端のほうで立ち見していたらしいトートーたちが何やらもめているようすだ。肩とすそをそれぞれつかまれながらトートーがわめく。
「アレでも一応はプロなんだぞ!? 一応は! そんなやつとやる機会がそうそうあるかっての!」
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