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しばらくはこのままでいたいと視界を閉ざしていたわたしの耳に飛び込んでくる音がある。
たったひとりが拍手をはじめたのだ。ゆったりとしたリズムで打ち鳴らされている。
目をひらいて、その主を探して――すぐに見つけた。
後藤塔子その人だった。
大仰なしぐさで、まるで劇場の支配人みたいだった。
いやだからさ、トートー、あなたはいったい誰目線で見ていたんだよって。
最初はトートーひとりだった拍手も、いつの間にか会場全体にひろがっていった。
起こった喝采のなかで入り口の扉がわずかにひらく。
運ばれていたギタリストだった。いくらなんでも早すぎる。おそらく演奏が終わるまで待機していたんだろう。ここさんがスタンドからマイクをはずし、空いているほうの手でこちらへと来るよう手招きした。
会場全体の注目を浴びながら壇上に戻ったギタリストは居心地わるそうに頭をかく。
そんなようすなんて見えてないみたいな顔をしてここさんははしゃいだ。
「あーっと、これが奇跡でしょうか!? なんと、急病だったギターの人かっこ仮が帰ってきました! すごい! 完治です! ギターの人かっこ仮、いまの心境をひと言!」
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