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「わたしは……わたしは、ただ、ここさんにあこがれたから……っ」
「物事を始めるとき最初は誰だって何者かにあこがれているものだよ、だけど日常を送るうちに、あっという間にその思いは風化してしまうんだ。うまくならない自分とか、始めるまではわからなかったそのあこがれた人の偉大さが身に染みて、『自分になんてムリだった』って投げ出しちゃう」
心当たりがないわけではない。わたしは作曲を投げ出しているのだ。でもそれはクルルンがいたからで、彼女がいなければわたしはまだ、統制のとれないおたまじゃくしたちと悪戦苦闘していたかもしれない。
「あこがれた瞬間の自分を忘れないってだいじなことだよ。きみは忘れなかった。それだけで充分に誇るに値するよ」
そうだ、作曲することを投げ出してもわたしは弾くことを忘れなかった。
歌うことを忘れなかった。
あこがれたその人が歌っていたラジオ局の周波数さえ忘れなかった。
それでいいのだ、だからいいのだとここさんは言ってくれる。わたしを肯定してくれる。
ああ、今日はホノアカクサクとして生きつづけてきたわたしの音楽人生最良の日だ。
この日、目にした彼女の顔をちゃんと覚えておくべく、じっと見つめようとしたのに、
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