#05.monophonic fairy tale

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「……れ? ……え?」  どんどんその輪郭がぼやけてしまう。おかしいな。目もとがやけに熱いし、鼻の奥からナミダが……そうです、わたしはハナミズなんて垂らしません、鼻からもナミダが出るのです。  ハナミダはすすってこらえたのに、目からナミダが流れそうになってあわてて上を向く。  それでもこぼれてきてしまう。 「ああ、泣かないで、ね?」  慰めようとするここさんにひと言伝えたい。  それ、逆効果ですからね!  もうひっきりなしにあふれてくる。わたしが最後に泣いたのはもう小学生時代までさかのぼらなければ思い起こせなかった。そういう感情はよくないものだって思っていて、いつの間にかナミダそのものがよくないなんてカン違いしていた。  この世にはうれしナミダというものが存在しているのだ。  かなしくっても泣かなかった。くやしくっても泣かなかった。  いま、そのぶんがすべてうれしナミダとなってあふれているのだと思った。 「って、わわ、きみやっぱり化粧すごいんだね……涙が黒いよ!?」  おどろかせてしまって、そんなにかと恥ずかしくなってきた。あわてて泣きやもうとする。 「ああ、そんな乱暴にぬぐっちゃ……!!」
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