#01.求愛プリフェッチ

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 あの日以降、けーおん部内ではわたしたちと太刀掛くんたち以外に、後藤さんのことがときおり話題にあがるようになった。本人は知るよしもないだろうけど、わたしは少しだけおもしろくなかった。  最後の文化祭を前に、一度みんなに見せておく必要があると思った。  真にすぐれているのはどちらであるか。  そんな野心を秘めていたのに結果は――引き分け。太刀掛くんたちと一緒になってやったにもかかわらず、しかも後藤さんは体調を崩していたように見えたのに。  じつはわたしも体調を――なんて言い出しても始まらないので認めているけれど、つぎにやれば勝てるとも思う。そしてそのつぎにやれば負けるだろう。――そうだ、実力でいえば伯仲もいいとこなのだ。  だから今回の体調を崩していた彼女との引き分けはかぎりなく敗北に近い引き分けだと、なんとか事実をのみこんでから思うことはひとつ。  もったいない。  後藤さんはどうしてあんなところで歌っているんだろうか。こちらにくればいいのに。  なんとか彼女が活躍できる場を用意しよう。  前向きなことを考えるいっぽうでわたしがあこがれていた小相木ここあさんその人に対してはこう思う。  ――ごめんなさい、わたしは勝てませんでした。  本人は知ったこっちゃないだろうけど、とにかく申しわけなさでいっぱいだった。
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