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#01.求愛プリフェッチ
『あこがれ』はわたしの初期衝動そのものだった。
あのときのわたしは小学六年生の女の子で、どちらかといえば地味なほうだった。これといって目に悪いことはしていなかったし、ブルーベリー農家にいたずらされた覚えもないのに、どんどんと視力が落ちていって、買ってもらっためがねをかけるのにもようやくなれてきたころだったと記憶している。
宿題をしていたわたしは静かな室内に嫌気がさして、ラジオの電源を入れた。
適当にまわしているうち、ノイズの合間に隠れたり紛れたりしながらもわたしを惹きつける歌声があった。あわててそれにチャンネルを合わせる。
その歌声は、雨上がりの雲間からさす光線が音色をもっていたら、こんなふうに聴こえるんだろうなって思わせる響きだった。
ラジオ番組の周波数まで覚えている。
あの日あの夜聴こえてきた歌声の持ち主は、小相木ここあ(こあいぎ――)という女性だった。のちに彼女の本業は声優さんで、わたしが聴きほれた歌で歌手デビューしていたと知った。
いまだ幼かった当時のわたしはそのめぐりあわせを運命だと確信する。
それからのわたしの入れこみようったらなかった。親のパソコンで情報収集をしては、なけなしのおこづかいを声優雑誌や音楽雑誌につぎ込んで、さらにぞくぞくとリリースされるCDを買いあさろうとした。
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