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そんな時、一軒の店が眼に入った。
「あの店なんていいんじゃないか」
わたしはその店を指差しながらそう言った。
窓はなくシンプルな作りだった。壁は薄汚れて茶色く見えるが、もしかするともとは白い壁だったのもしれない。
あまり目立つような店ではなかったが、わたしはその店にどこか惹かれるものを感じていた。人をわざと寄せ付けないような雰囲気。そんなところが気に入ったのかもしれない。
入り口の上のネオンは英語で書かれているようだが、字体が特殊でほとんど読み取れなかった。唯一、分かったのはBARという単語だけ。だがそれだけ分かれば十分だった。酒を出す店なのは間違いないのだから。
「よし、あそこに決まりだ」
水木があっさりと承諾する。もともと彼は考えてから行動するようなタイプではない。気持ちの赴くまま、自由気ままに振舞う。彼のそんなところをわたしは気にいっていた。
水木が店の入り口に歩み寄った。だが扉に手は掛けず立ち止まったままだ。何かあるらしい。わたしが水木の背中越しに覗き込むと、扉に張り紙が貼られているのが見えた。
この店が出来た当初からあるのかもしれない。そう思わせるほどに古びた紙だ。しかもところどころ破れている。書かれている字もかなり擦れていたがなんとか読み取れた。
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