第1章

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 殺人鬼以外の方のご入店はお断りします。  張り紙にはそう書かれていた。  どういう意味だ。何かの趣向だろうか。  わたしが張り紙の意味を考えながら見つめていると、水木が言った。 「これってつまり、殺人鬼以外は入るなってことだよな?」  たしかにこれはそうとしか読めないだろう。だが、殺人鬼以外入れない店なんてあるのだろうか。  そういえばこの辺りは殺人事件が多かったな、とふとそんなことを思った。だがもちろんこの店と関係あるはずはない。 「単なる客引き文句だろ」  わたしはそう結論付けた。 「ま、そりゃそうだよな」  そう言うと水木が店の扉に手を掛けた。相変わらず行動の早い男だ。樫で出来ているらしい重厚そうな扉がギィと音を立てて開いた。  店内には薄暗い照明が灯されていた。右手にカウンター席が数脚あり、奥はテーブル席になっている細長い造りだ。だが店内に飾られたいくつもの品々がこの店に特別な雰囲気を作り出していた。
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