第1章

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 入り口のすぐ隣に、まるで出迎えるかのように完全武装した西洋の騎士の鎧が仁王立ちしている。先に店の中に入ったわたしは、それが眼に入ると驚いて腰を抜かしそうになった。転びはしなかったが、一歩後ろに下がったわたしの背が水木の胸にぶつかる。 「おいおい。大丈夫か」水木は何でもないような顔で店内に入ると、鎧をコンコンと手の甲で叩いた。「ただの人形さ」  水木はさっさとカウンター席へと向かった。初めての店ではカウンターに座るのがわたしたちの慣習だ。  奥のテーブルにも何人か客がいるようだったが、カウンターには誰も座っていなかった。わたしも水木の後に続いてカウンターへと向かう。だが眼は店内の異様な光景に釘付けだった。  カウンターの向こうの壁に、様々なマスクが飾られている。映画で有名なジェイソンの仮面や、オペラ座の怪人と思われる仮面、拷問吏が使うような鉄仮面もあった。  わたしたちはカウンター席の中ほどに並んで腰掛けた。カウンターの中では、この店のマスターらしき、初老に差しかかった年齢の男がグラスを磨いている。 「いらっしゃい」  ちらりとわたしたちに眼を向けてマスターが挨拶した。
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