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マスターは百八十近い長身の持ち主だった。顔の左半分の皮膚が火事にでも遭ったらしく焼け爛れ、引き攣れている。そんな彼の姿はこの店の雰囲気にぴったり合っていた。
わたしはマスターにブランデーの水割りを、水木はウィスキーをロックで頼んだ。マスターがグラスを鳴り合わせる音が店内に響く。
「なかなかいい雰囲気の店じゃないか」
水木はこの店を気に入ったらしい。
「そうだな」
わたしはそう答えるしかなかった。
どうやらこの店は特殊な趣味の人間が集まるバーのようだった。これまでにも何度かこういった店に入ったことがある。
いつだったか、監獄をモチーフにしたバーへ行ったことがあった。通されたテーブル席は牢の中にあり、店員は皆、看守の服を着ていた。つまり、客は囚人なわけだ。
オーダーが決まったことを知らせるボタンがテーブルに置かれていて、それを押すと壁に取り付けられた回転灯が回り出しアナウンスが流れる。
『2894番が脱走』
アナウンスを聞いた看守はその番号の書かれたテーブルへと向かい、牢を警棒で叩いて言うのだ。
「ご注文はお決まりでしょうか?」
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