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台詞とのギャップが面白く、わたしたちはその店を気に入っていた。だが生憎その店は人気があり、いつも満席なため予約しないと入れない。
「見てみろ」
そう言って水木が眼を向けたのは、背後の壁に飾られた一振りの斧だった。
「まるでたった今使ったばかりのようじゃないか」
彼の言うとおりだった。斧の刃が血に濡れたように赤く染まっている。演出なのか後ろの壁にまで染みのように赤い塗料が塗られていた。
「随分、凝ってるな……」
わたしはそう声を漏らした。するとその言葉を聞いていたらしいマスターが喜色を浮かべて言った。
「そうでしょう。ここに来られる殺人鬼の方は皆さんそうおっしゃいます」
わたしたちはマスターの言葉に笑いを噛み殺した。ここもいつかの監獄バーと同じで役柄になりきっているらしい。
カウンターに酒の入ったグラスが置かれ、わたしたちは乾杯を交わした。
今日何度目になるか分からないが、乾杯することに意味は無かった。わたしたちにとってそれは飲み始めるという合図なだけだ。
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