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動かないケータイが、力の抜けた指先から滑り落ちる。
ごとん、と硬い音を響かせてフローリングに転がったケータイに、のろのろと視線を移す。
もう拾う気にはなれなかった。
がらんとしたリビングにはTVボードもなく、充電器の在処なんて探しようがなかった。
左手に握りしめていた、紙を開く。
妻の欄に綺麗に整った文字で「相沢悠里」と記されていて、証人の欄にも妻の友人の名が二人分埋まっていた。
「俺が、…何も知らないのに?」
友人たちは悠里の話を聞いて…聞いただけで。
署名したのか。
何も。
何も。
……何も。
知らないくせに。
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