3話『女王の恋』 (12月20日の日記)

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 アタシ達は並んで校庭を歩き、校舎に入っていく。 「あいー? テンション低くね?」 「いつきちゃんはさ、アタシが見えるの?」 「は?」 「いつきちゃんはアタシの姿が見えるんだね」 「…………? 当たり前じゃん。あんたは変わんないよねー。子供の頃から変なことばっか言って」と、いつきちゃんが目をぱちくりして、アタシを眺める。 「いや最近また、時々フラッシュバックくさいのが、襲ってくるもんで……」と、アタシは校舎の昇降口の、自分の靴箱の前で、上履きに履き替える。 「なに? 雪ノの件?」と、いつきちゃんの表情が険しくなる。 「あ、うん」とアタシはうなずく。  アタシは1年生の時、雪ノちゃん率いるクラスの女子達から、「見えないフリ」をされていた。つまり、シカト祭をされていた。  2年生になって、幼馴染みのいつきちゃんと同じクラスになれたことで、アタシは無視地獄から救われた。  いつきちゃんのケンカの強さは日本一だから、そりゃ誰も逆らわない。  いつきちゃんが「あいをいじったら殺す」と言えば、誰もアタシをいじめない。  いつきちゃんは空手の高校生全国チャンピオンだ。  いつきちゃんのパパは空手道場の館長で、いつきちゃんよりも強くて、いつきちゃんはいつかあのクソハゲ親父を倒して世界に行く、っていうのが口癖だったから、いつか、いつきちゃんは海外で暮らすんだろうな、と、アタシは子供の頃から思ってきた。  いつきちゃんは今も毎日毎日、お父さんに道場でボコられている。
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