3話『女王の恋』 (12月20日の日記)

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 怒っていたのはいつきちゃんで、いつきちゃんはコーキ君の後頭部を手ではたき、気をしっかりせい、授業に集中せいと、道場にいるみたいな言い方で、小声で叱っていたけど、コーキ君はぼけっと、外ばかり眺めていた。  今日は12月20日。アタシは今日にも、「コーキ君とお父さんの居酒屋の問題」を、処理しなくちゃいけなかった。  処理しなくちゃいけないけれど、校内でコーキ君に近づくのは、人目につく…………。  処理は、人知れず、すみやかに。  それが女王としてのルールだ。  だからアタシは、コーキ君と同じクラスだというのに、授業中も休み時間も、コーキ君に話しかけることなく。  アタシは放課後、誰も見ていないタイミングを見計らって、コーキ君に近づくことにした。  放課後。今日の掃除係のコーキ君が、ゴミ焼却場に一人でゴミ箱を運んで行く状況になったので、あとを追った。  すると校舎裏のゴミ焼却場で、コーキ君に歩み寄ったセーラー服の女の子がいる…………雪ノちゃんだった。  アタシは久しぶりに雪ノちゃんを見た。  雪ノちゃんはどこから現れたのか、焼却場で一人ゴミを捨てるコーキ君に近づき、ゴミ焼却器のまわりを囲むコンクリートブロック壁に、コーキ君を押し付けて、コーキ君の制服のネクタイを掴んでコーキ君を自分に引っぱり、コーキ君に伸び上がってキスをした。  長い長い長いキス。長過ぎるだろお前とアタシが思っていると、雪ノちゃんはコーキ君からやっと離れ、アタシに目を向けた。雪ノちゃんはアタシが焼却場のそばの並木に隠れて覗き見していることを、最初から知っていた様子だ。 「何か用?」と、雪ノちゃんはアタシに言った。 「雪ノちゃんに用事があるわけじゃない」と、アタシは木陰から出て言った。  コーキ君は雪ノちゃんを突き飛ばした。
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