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目覚めると3時を回っていた。枕元に置いてあった箱ティッシュから一枚取り出し鼻をかむ。母さんの持ってきた紙袋に入っていた箱ティッシュだった。そろそろ二日目、最後の科目である現代文のテストももう終わっている時間だった。高校入学以来守り続けてきた学年トップの座を譲り渡すことに悔しさがなかったと言えば嘘になるが、この病室にいるとすべてがどうでもいいことのように思えた。生きるか死ぬかという場所で、つまらないプライドなど何の役にも立たない。
頭を空っぽにしようと、ベッドの上で上半身だけを起こしてリモコンでテレビをつけた。映し出されたのはワイドショー。芸能人がくっついたの離れたの。くだらないと思いながらも、彼女いない暦十八年の自分としては、羨ましいと言わざるを得ない。どうしたら、こんなに簡単に女の子と恋仲になれるのだろうか。
誰かの足音が近づいてきた。トントンとノックの音。
「はい、開いてます」
ドアが開く。渡辺さんだろうと思っていたら、入ってきたのは白衣姿の榊先生だった。
「お邪魔するよ、あ、そのままでいい」榊先生は起き上がろうとしたおれを手で制してから、ドアを閉めてカギをかけ、部屋の中に入ってくる。ベッドの脇にある椅子に腰を下ろすと、椅子がギシリと音を立てた。
「テレビの音がしたから起きてるだろうと思ってね」
「あ、消します」おれはリモコンで電源を切る。医者が一人で患者の病室を突然訪れたりするものだろうか? 胸の中でかたまりになった不安が急速に膨れ上がる。
「検査結果が出たよ。正確に言うと一部まだ出ていないものもあるけど」そう語る榊先生は怖いくらいに無表情だった。
「これからする話は、私と君だけの秘密だ。私はほかの先生にも、看護士たちにも、本来なら話すべき君の両親にも絶対に話さない。カルテにも記録は残さない」
「え?」なぜ? 何? この人は何を言っている?
「聞けば分かる。君の病気は、男子色情症型脳血管攣縮症といわれていて、まだ世界でも四例しか報告がない。病名も正式なものではないし、おそらく日本での患者は君が初めてだろう」
「……」理解が追いつかない。
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