第1章

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「山井君は多分、日常的にいつも性的衝動にかられているはずだ。そのせいで何も手に付かないことがあるだろう。頭痛や目まい、だるさ、疲労感、寝つきの悪さ、貧血。性衝動をもたらす脳内物質の過剰分泌が引き起こす、この病気の症状はこんなところだ。大したことがないと思うかもしれないが、どんな症状でも重くなると大変なことになる。下手すると脳内の血管が破裂するなんてことだってありえる。山井君もマスターベーションである程度は性欲を発散していると思うけど、それだけではやはり十分ではない。山井君、見た感じはオクテじゃないかと思うけど、童貞? 彼女はいる?」 「……彼女はいません。だから、そんな相手もいない」おれは正直に答えた。なぜそう思うのか、とは聞き返さなかった。見ればわかるのだろう。恥ずかしがっている場合とは思えなかった。 「そうか。正直に言うと、この病気のことはよくわかっていない。一応伝えなければいけないが、この病気には死亡例がある。アメリカの患者は若くして脳出血で死んだ。この病気と診断されてから半年後のことだったそうだ。もっとも、病気との因果関係がはっきりしているわけではないがね。あと、病気のことがよくわかっていない以上、治療法もわからない」  死亡? 死ぬ? おれが? たったの十八で? 童貞のままで? 童貞がゆえに? 目の前の榊先生の顔は、笑っていない。 「もう一つ分かっているのが、この病気にはセックスが有効だということ。進行を遅らせるだけなのか、完治にまでつながるのかは不明だけどね。さっき彼女のこと訊いたのはこういう理由からだ。やはりマスターベーションより女性との性行為の方が、確実に発散度合いで勝るらしい。女性の膣分泌液に含まれる成分が有効だという説もあるみたいだけど、なにせ症例が少なすぎるから確かなことはなにも言えない」 「……要するに、おれは、このままセックスしないと、そのうち死ぬかもしれないっていうことですか?」 「平たく言うと、そういうことになる」榊先生は頬に生えたひげを撫でながら頷いた。 「時間の猶予は?」 「正直に言うと、それもわからない。もちろん、すぐどうこうということにはならないだろう。昨日からの回復ぶりを見てもそうだし、MRIやCTを見ても特段の異常は見られなかったから」 「よくわからないから、死にたくなかったらできるだけ早くセックスしろってことですか?」
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