第1章

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「そういうことになるかな。これで二人だけの秘密って言った理由は分かっただろう?」 「カルテにも書かないのは?」 「日本では初の症例だからね、他の医者が知ったら放ってはおかない。貴重な研究対象なんだから。けど君は今高校三年生で、大学受験もある。そして何より、私は我等がH高校期待の星に、先輩としてできるだけのことをしてやりたい。君の前途をふさぐようなことはしたくない。韓国の事例では、この病気と診断された患者は、結局は家族の判断で隔離されることになったそうだ。病気が進行して死にそうになった時、自分が生き延びるために女性を襲うかもしれないと思われたらしい」 「それじゃまるで……、性犯罪者みたいじゃないですか」 「うん、ひどい話だ。だから私は、この話を君にしかしない」  呆然とした。するしかなかった。誰にも言えない、死に至る病。そんな、ひどい。 「とりあえず今日一日入院して、明日の昼には退院してもらおうと思ってる。その後もたまには来てもらうことになると思う。私ももっとこの病気のことを調べておくよ。まあそんなに深刻に考えることはないさ。頑張って女の子を口説いて、エッチすればいいだけだ。いざとなれば風俗という手だってないわけじゃない」榊先生は真顔だった。 「……はい」風俗に行くなんて、死んでも嫌だった。金で女を抱くくらいなら、死んだ方がマシだ。 「じゃあ明日は八時半に私の研究室に来てもらえるかな。五回の南端の部屋だ。診察室だと看護士たちがいるからね。あまり心配しなくていいよ。大丈夫だ」 「はい」 「それじゃあまた明日。何かあったらいつでもナースコールで呼んでくれていい」榊先生が立ち上がった。 「はい」 「それじゃあまた」榊先生がカギを開け部屋を出て行った。サンダルの足音が離れていく。 「…………」こんな時、昨日のように倒れて意識を失ってしまえたら楽だろうに。なぜおれなのか。彼女いない暦=年齢のモテないおれでなく、彼女をとっかえひっかえしているような奴なら、なんてことのない病気だろうに。よりによってなんでおれが。 頭が、痛い。痛くなってきたような気がした。両手で頭を抱えた。涙があふれた。十歳を超えて、自分自身の問題で涙するのは初めてのことだったと思う。  ためらいがちなノックの音がした。慌てて両目を拭い、顔を上げる。「どうぞ」
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