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五月二十二日(木)
声にならない声を上げ、おれは達した。あらかじめ性器に被せてあった、七層のティッシュへと、精液を放つ。テスト前の一夜漬けでどんなに寝不足でも、寝坊してどんなに時間がなくても、したくて仕方ないのだから仕方ない。
長い空白ののちに、おれはパジャマのズボンを上げて起き上がる。壁にかかった時計を見る。もう七時半を過ぎていた。脳裏に残る西恭子のおっぱいを、FかGだと見立てているおっぱいを、裸を消し去り、おれはベッドを降りて慌てて部屋を出て、そのままトイレへと向かう。洋式トイレの便座に腰掛けズボンを下ろす。弛緩した男根の先端にまとわりついたティッシュの塊を便器の中に落とした。
ティッシュを部屋のゴミ箱に捨てるなんて愚を犯すほどおれは間抜けではない。たとえどんなに眠くても。マスターベーションの痕跡を消し去るにはトイレに流してしまうのが一番だ。ついでに朝一番の小便をして、おれはトイレを出た。
「向志、やっと起きたの。あんた今日から一次考査なんでしょ? さっさと準備しないとバス間に合わないよ」
二階で動くおれの足音を聞いたのだろう。一階、おそらくは台所にいるだろう母さんの馬鹿でかい声がした。
「わかってる。飯はいいや」声を張り上げて言った。
「まったくもう。お腹空いて倒れても知らないよ」
返事をせず階段を下りてすぐ洗面所に入り、急いで歯みがきをして顔を洗った。再び階段を上って自分の部屋に戻り、念のため、トランクスを引っ張って隙間から香水を少しだけ男性器にかけた。学生服に着替える。壁掛けの鏡を見る。寝癖がついて頭頂部のあたりの髪が少し立っていたが、それがかえっていい感じのような気がする。
ドタバタと階段を下り、そのまま玄関に向かう。
「行ってくる」台所にいるだろう母さんに声をかける。
「行ってらっしゃい。気をつけてね」
踵を折ってスニーカーに足を突っ込む。ドアを引いて開けた。ドアが勝手に閉まるのに任せ、おれは母さんの顔を一度も見ないままに家を出た。
スニーカーに足を収めながら、おれは全力でバス停へと走る。北国とはいえ、五月の朝は寒くなく、心地よく涼しい。火照った体にはちょうどよかった。
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