第1章

23/23

22人が本棚に入れています
本棚に追加
/23ページ
「うん」香奈が恥ずかしそうに、小さく頷いた。香奈は今日の夕方、一人でおれの家までやって来た。コンドームを持参してまで。この辺りに薬局はないから、病院でおれと母さんを見送った後、あの辺のどこかで買ってきたのだろう。店でコンドームを買うのがどれだけ恥ずかしかったか。コンドームを携えておれの部屋に上がることがどれだけ恥ずかしかったか。 「香奈、ありがとう」感謝の言葉が、自然と口をついて出た。 「死なれたら、嫌だからさ。夢に出てきそうだし」そっぽを向いて香奈が言う。 「ありがとう」もう一度言って、首だけを起こして香奈にキスをした。 「もう」香奈がおれの頬をひっぱたいた。優しく。 「香奈、可愛いよ」昨日言えなかった言葉が、今日は自然と言えた。 「バカっ」またひっぱたかれた。今度は少し、痛かった。 「一応確認だけどさ、コウシは、卒業したら東京の大学行くんだよね?」 「ああ。たぶん」 「じゃあわたしもがんばって勉強して東京の大学行ってあげるよ。わたしがいないとコウシ死んじゃうからさ。コウシもてないからどうせ彼女なんかできないだろうし」 「ありがとう。けどなんか、最後一言余計なんだけど」おれは笑った。香奈の思いやりが嬉しかった。大きな不安を解消してくれた香奈のことを、本当にありがたいと思った。高校を卒業した後どうしたら生きていけるのか、不安に思っていたから。 「そう言えばさ、さっきお見舞いに西さんが持ってきたやつって何だったの?」香奈がおれの裸の胸に手を置いた。 「ああ、あれ? お菓子」手作りのクッキーだとは何となく言いにくくて、そっけない言い方をする。自分でそれに気付き、慌てて続けた。 「おれ、西とほとんど話したことなかったんだけど、なんか西ってなんつーか、どっかずれてるよな。あんなことで心配してわざわざ見舞い来るとか」 「そうだね。私も親しいわけじゃないけど、真面目っていうか、変に義理堅い感じだよね。誰かと親しいとかも聞かないし、なんか天然な感じだよね」 「確かに」おれは作り笑いを浮かべた。想像の中で何度も抱いた、裸の西が脳裏に浮かぶ。股間が、熱くなる。 「あの、……もう一回、いいかな?」おれは香奈のなめらかな背中に手を伸ばした。 「うん」顔を背けて、香奈が頷いた。
/23ページ

最初のコメントを投稿しよう!

22人が本棚に入れています
本棚に追加