第1章

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 二分ほどでバス停に着く。バスの姿はなく、バスを待つ人の姿もない。まだ来ていないのか、もう行ってしまった後なのか。時間を確認すべく携帯電話を見ようとバッグの中を漁っていると、ガチャリと音がした。  顔を上げると、ブレザー姿の香奈が立っていた。バス停の目の前にある自宅から出てきたところだった。 「おはよ、コウシ」香奈がそう言って微笑む。朝日を浴びた香奈は、ちょっと可愛く見えた。肩まである髪の隙間に見える、白い細い喉をいやらしくさえ感じた。膝上1センチほどのスカートから伸びる、白い脚も綺麗だとは思う。先月で新体操部を引退し、その白い足は少しふっくらとしてきたような気もする。これでもうちょっと胸もふっくらしてくればなあ、とおれは思う。彼女を作るならDカップ以上とおれは決めていた。十八年間彼女なしで童貞で女っ気ゼロの自分のことは棚に上げて。香奈からしても、暗そうで冴えない容貌の自分なんか願い下げだろうけど。 「おう。香奈、お前がいるってことは、間に合ったんだよな?」 「どうかな?」香奈がいたずらっぽく笑う。  桜木香奈。幼稚園から始まって小中高と一緒の、幼馴染の美少女。互いに一人っ子だったから、ガキの頃はよく一緒に遊んだものだった。これで胸さえあればなあ。香奈のブレザーの胸の部分が盛り上がっていないことを改めて確認して、おれは小さくため息を吐く。  その息をかき消すようにエンジン音がした。午前七時四十七分市川停留所発のバスが、少しずつ大きくなってやってくる。  香奈と二人で階段を駆け上がる。朝のホームルーム直前だけに、廊下や階段で人を見かけることはない。  やっとのことで三階に着く。後ろで香奈のハアハアという荒い息がする。 「なんで、三年生が三階なんだろ。普通、年寄りが一番下の階じゃんね?」 「同感」息が切れているのがばれないよう、短く返事をする。運動部だった香奈と違い、ゲーム部で毎週末徹夜で麻雀に勤しんでいただけのおれは体力がない。そのことを露呈しないよう静かに呼吸を整えながら、おれは三年六組の教室の扉を開く。 「わ」それはどちらの声だったのか。
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