第1章

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「今は大丈夫です。ただ、半年くらい前から、たまに偏頭痛がありました」 「偏頭痛はどんな感じ? 頻度は? 場所は?」矢継ぎ早に質問が飛んでくる。 「おでこの上の辺りが締め付けられる感じで、月に1、2回とかですかね」記憶を辿りながら、おれはできるだけ正確に答えた。 「なるほど。じゃあこの後、一応MRIとCTも撮っておくか」  脳の状態を確認するのだろう。MRIとCT。詳しくは知らなかったが、最低限のイメージは持っていた。 「おい、渡辺さん、ちょっと」榊先生は診察室の奥に声を掛けて看護婦の渡辺さんを呼び、「準備よろしく」とだけ言って一枚の紙を手渡した。渡辺さんはすぐに奥へと消えていく。 「山井君さあ、優秀なんだってね」突然笑顔になって榊先生が言う。 「は?」 「私もH高校の卒業生だからね、色々噂を聞くことはあるよ。二十年に一度の天才だって」 「はあ」何て答えたらいいのかさっぱりわからない。 「私もねえ、高校生の頃は言われたもんだよ、二十年に一度の天才だってね。君と私の歳は二十も離れてないけどね」榊先生が楽しそうに言う。 「大丈夫です。二十年に一度の天才が二、三年ごとに現れることくらい、わかってますから」おれは言った。本心ではあったが、言ったそばから格好付けすぎたと後悔した。 「ふふ、よくわかってんじゃん。なんか昔の自分を見てるみたいで応援したくなるよ」榊先生が前かがみになって言う。頭でも撫でられるのではないかと怖くなる。 「じゃ、あとは渡辺さんについていって。夕方また会うことになると思うから、詳しくはまた」渡辺さんが診察室の奥からまた現れ、おれの目を見て頷く。 「はい。ありがとうございました」おれは頭を下げて立ち上がった。立ちくらみは、なかった。  MRIやらCTやら胸部X線やら何種類あったかわからないいくつもの検査と部屋での昼飯を終え薬を飲むと、やたらに疲労と眠気を感じ、おれはまた昼寝をした。皆が必死に解答用紙を睨んでいる時間に堂々と寝ていられる。贅沢な時間だと思った。
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