第2章

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「あ、いや、そうじゃ、いや」したい。この期に及んでまだ、香奈を目の前にして、欲望には火がついていた。風邪で辛そうにしているのが、香奈が少し弱気な感じなのが、おれの心を騒がせる。会えば、できる。そんな最低で最悪な条件反射が、おれの体の中で起こっている。 「……ママにはちょっと風に当たってくるって言って出てきたから、あんまり遅くなるとまずい」つぶやくように小さな声で香奈は言う。するなら、早くしよう。こんな恥ずかしくて仕方ないだろう言葉を、香奈は、おれのために、口にしてくれている。 「香奈に伝えないといけないことがある」  香奈の肩が、震えた。多分、見間違えじゃない。 「……それ、どうしても聞かないといけないこと?」 「ああ」 「……そっか」香奈が俯いた。  いよいよ、言わなければいけない。 「……学校で、噂が広がってる」 「え?」香奈の目が大きく開く。 「おれがエッチしないと死ぬ病気で、おれが、死にそうになって、死にたくないから、香奈をレイプしようとした」 「え?」香奈の顔が、凍りつく。 「香奈は、おれのことを哀れんでかばって、黙ったままでいる。そういう噂が、広がっている」  香奈がマスクの上から、右手で自分の口を押さえた。 「病院でのことを、誰か学校の奴に聞かれた可能性がある。市内で一番大きい病院がT大病院なんだから、学校の奴が来てる可能性は当然あったんだ。気付かなかったおれが馬鹿だった。もっと気をつけるべきだった」  そこまで言って、正座のまま、両手を前についた。 「ごめん」  おれはそのまま、頭を下げた。土下座をした。 「嘘、でしょ?」マスクの奥から、香奈のかすれた声が漏れる。  一度頭を上げ、応えた。 「残念ながら、本当だ」  そしてまた頭を下げた。 「本当にごめん」 「やめてよ、コウシ」香奈がおれの側にやって来て、両手で肩を押しておれの頭を起こした。 「こないだ病院でしようって言ったのはわたしだよ。土日都合悪いからって、無理言ったのわたしだよ。わたしが、悪いんだよ」 「お前が悪いわけ、ないだろう」  目の前の香奈の顔を見たら、涙が溢れてきた。 「泣くな。男だろ」  香奈が微笑んだ。  鼻を啜り、きつく両目を閉じて、深呼吸をして、まぶたを開いた。 「ああ。泣かない」 「よし」香奈がまた笑いかけてくれる。  香奈、お前は、強いよ。 「こっから作戦会議だ」 「うん」香奈がおれの隣に座り直す。
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