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「噂はかなり真実に近い。噂を広めた奴は、本当に、かなりのことを聞いたと考えた方がいい」
「うん」香奈が頷く。
「だからある程度は噂を認める方向で行こう。おれが病院でお前を襲った、けど、ものの見事に撃退された。これで行こう」
「けどそれじゃコウシが」
「おれのことは心配すんな。まあ、病気のことは否定させてもらうよ。エッチしないと死ぬ病気なんて、馬鹿馬鹿しくて嘘っぽいからさすがに否定できるだろ。本当は本当なんだけどさ」おれも、笑ってみせた。香奈が、ぎこちなくだけれど、笑い返してくれる。
「香奈は、友だちとか誰でもいいから、学校の奴にこの話をしてほしい。運動音痴のあんな奴にわたしが負けるわけないじゃん、とか言って」
「けどそれじゃ、やっぱりコウシが」
「心配すんな。せいぜいあと半年かそこらだ。もともと友だちいないし。かえって受験勉強に集中できるってもんだ」おれは強がって言う。バスの中では色々考えた。おれがどこかに転校するとか。だがどこへ? 我が家のどこにそんな金がある? 逃げる先はないのだ。だからおれが、耐えるしかない。香奈には、辛い思いをさせちゃいけない。
「本当に、それでいいの?」
「ああ」即答する。
「コウシは嫌かもしれないけどさ、わたしたち付き合ってるってことにするとか、他にもやり方はあるんじゃないの?」香奈が下を向いたまま提案した。
そういう手もあったかとおれは驚く。思いつきもしなかった。
それでも、言う。
「こういう話ってさ、女の子はまずいけど、男にとっては大したことないっていうか、勲章みたいなもんじゃん?」おれは笑ってから、続ける。
「それに、おれのために色々してくれてるお前に、迷惑はかけられないよ」
「本当に、本当に、それでいいの?」
「ああ。だから、学校ではあまりおれと話すなよ」
「本当にいいの?」
「……ああ」
「本当に?」
「ああ」
「…………そっか。優しいね、コウシ」
「お前ほどじゃないよ」
顔を見合わせて、二人で小さく笑った。香奈の笑顔がどこか寂しそうに見えたのは気のせいだろうか。
「おれがいたら話しにくいだろうしさ、おれは明日学校休むから。さっきの話、できるだけ広めといてくれよ。ってお前具合悪いんだったよな」
「大丈夫、気にしないで」
「悪いな、無理させて」
香奈が首を振る。
「今晩寝れば直るよ。今はもうだるいだけ。朝と比べればもうだいぶよくなってるし」
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