第2章

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五月二十六日(月)   月曜の朝、三年六組の教室に向かって廊下を歩いていると、隣の五組の教室の前に人だかりが出来ていた。皆がワイワイ言いながら壁に貼られた紙を見ている。先週の一次考査の成績上位者五十人の名前だった。土日をつぶして採点をしなければならないのだから、進学校の教師というのも楽ではない。  一位、多田剛。二位、須川正人。三位、金子洋子――――。  当たり前だが、山井向志の名はない。テストを受けていないのだから。気付くと、周りの同級生たちの視線をあちこちから感じた。多分、過剰な自意識のせいではない。勉強のし過ぎで倒れて一位の座を明け渡した哀れなガリ勉。何も知らなければそう推測するのはごく自然なことだろう。  本当にそうなら、どれだけよかっただろうか。  貼り紙から視線を外し六組の教室へ向かった。足早に教室に入り、久しぶりに自分の席に着く。 「お、今日はずいぶん早いじゃん」腰を下ろすと、早速多田が寄ってきた。 「ああ、バス停から全力疾走するのはしばらく避けたい」おれは苦笑した。 「はい、これ。本当は見舞いに行った時に渡したかったんだけど」多田が差し出したのは「BAMB」だった。隔週刊のグラビアアイドル雑誌である。 「お前が倒れた日の発売だから、買ってないだろ? 表紙、山崎愛だぜ」山崎愛は、おれの一押しのグラビアアイドルである。豊かな胸に愛らしい顔。西恭子に次ぐおれのオカズだ。 「遠慮なくもらう」おれは多田の手から雑誌を奪い、素早くカバンの中に仕舞った。 「ところで、テストの結果見た?」多田が声を潜めて言う。 「ああ、さっき見てきた。おめでとう」 「まあ、答案帰ってくるのはこれからだから、喜ぶには早いけどな。一位つったって皆出来が悪くて相対的にマシだっただけかもしんねえし」 「まあそう言うなよ」おれは苦笑する。 「初めての一位がお前不在の時ってのが癪に障るし。次はお前にも勝つからな。あと麻雀も」笑いながら言う多田の目は真剣そのものである。多田と雀卓を囲んだ奴なら必ずわかるはずだ。こいつを敵に回すと怖い、と。中学時代に、カツアゲして来た高校生二人をボコボコに殴り倒したという噂も、多少の脚色こそあれ実話らしかった。 「ああ。わかってる」おれはそう応えるしかなかった。 「あの、お話中すみません……」気付くと、多田の後ろに、眼鏡のフレームに手を当てた西恭子が立っていた。
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