第2章

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 具合が悪いので休むと母さんに学校へ電話してもらい、朝からベッドに横になってもう何度も読んだ漫画を再び読み返した。が、すぐに飽きた。文庫の小説は読む気にならない。母さんがパートの日ではなくずっと家にいる以上、どこかに気晴らしへ出かけるというわけにもいかない。それに、具合が悪いのは事実だった。昨日殴られた腹は歩くたびに軋んだ。眠れない夜の果てのわずかな眠りから目覚めた時の感触からすると、骨折ということはなさそうだった。不幸中の幸いと喜ぶべきか、多田の加減の絶妙さに恐怖するべきか。  授業が終わる時間になるたびに、香奈が、多田が、噂をうまく広められているだろうかと何度も想像した。  昼食はそうめんだった。冷たい方ではなく温かい方の。おれのことを思いやってくれている母さんの目をまっすぐ見られなかった。あなたの息子は男子色情症型脳血管攣縮症で、要するにスケベ過ぎて体が、頭がおかしくなったような奴で、幼馴染の優しさにつけこんで欲望を満たして生き永らえていて、そのことが学校でばれて、これからは強姦男として、よくてレイプ未遂犯として、生きていくことになるのです。  そんなこと、言えるわけがなかった。  夕方、自分の部屋のベッドで布団をかぶってごろごろしていると、枕元に置いていた携帯が鳴った。もう薄暗くなった部屋の中で携帯の液晶が光る。見ると、香奈からのメールだった。「昨日のこと、何人かには言いました。本当にこれでよかったの? コウシが変態みたいに言われるの、辛いよ……。あと、やっぱり、ちょっとまだ体調悪いみたい。明日は学校休むかも」  すぐに返事を書く。 「ありがとう。具合悪いのに無理させてごめん。明日はゆっくり休んで。おれのことは気にしないで。うまくやります」  送信ボタンを押してすぐ、またしてもメールが届く。 「うん……。わたしはずっとコウシの味方だから!」  そう言ってくれるのはお前だけだよ。お前と幼馴染で、本当によかった。 「ありがとう。本当にありがとう」色んな思いを込めて、返事を書いた。  メールを送り終えると、わずかながらの安堵からか、猛烈な睡魔が襲ってきた。明日は学校に行かなければならない。こんな時間に寝たらまずいと理性は言っていたが、昨晩ほとんど眠れなかった体は言うことを聞かなかった。 6月11日(水)
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