第2章

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 雨が傘を打つ音がリズミカルに響く。二人とも無言のまま、並んで歩き続けた。おれは、西の歩幅に合わせるようなことはしなかった。西は、それでも少し早足でおれについて来た。  そしてついに、校門を出たところで西が口を開いた。 「あの噂、嘘ですよね?」 「…………」どう答えていいかわからず、口を閉じたまま歩き続けた。 「山井くんが桜木さんのこと襲ったとか、全部嘘ですよね?」西が再び問いかけてくる。西の眼鏡が、雨粒で濡れていた。 「何で嘘だと思うの?」そう言った自分の声はかすれていた。 「わたし、まだ山井くんと話すようになって少ししか経ってないけど、そんなに山井くんのこと知ってるわけじゃないけど、それでもわかります。山井くん、そんなことする人じゃないです」  西が立ち止まって言い、おれも足を止めた。傘の下からおれを見る西の眼は、怖いぐらいに真っ直ぐだった。おれは反射的に眼を逸らした。雨が地面に落ちる。  落ちる。  落ちる。  おれは、君が思うような男じゃないよ。確かに、レイプなんかしてないけど。だけど。 「西さん、おれのこと、信用し過ぎだよ」  おれは再び歩き出した。雨の中二人で立ち止まって話しているところを誰かに目撃されたらまずい。レイプ犯のおれとそんなことになったら、西にまで迷惑がかかる。  西がすぐにおれの背中を追って歩き出す。西はそして、おれを追い越して、言う。 「わたし、噂なんか信じませんから。信じるのはわたしの勝手です」  君は、強いんだね。  君みたいな強さがおれにあったら、今みたいなひどいことにはならなかったのかな。 「ありがとう」そう応えてから、泣きそうになって慌てて傘で顔を隠す。香奈以外の、事情を知らない人からここまで信じてもらえるとは思ってもいなかった。 「山井くんって、嘘つくの下手なんですね」西が微笑む。 「そうかな?」おれは硬くまぶたを閉じて涙腺を引き締めてから、傘を少し上げぎこちない笑みを浮かべて言葉を返した。 「そうですよ。ありがとう、って、噂が嘘だって認めちゃったようなものじゃないですか」 「……まあ、そういうことになるんでしょうか」 「結構間抜けですよね」  フフ、と西の口から声が漏れた。大型のトラックが通り過ぎ、水溜りの水を音を立てて飛ばした。飛んだ水がおれたちの前方の歩道に落ちる。もう少し早く歩いていたら危なかったかもしれない。
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