第2章

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「わたしには言えないような事情があるんですよね? それでもわたし、信じてますから」 「ありがとう。そう言ってもらえるのは、本当に嬉しいです。……けどやっぱり、西さんはおれのこと信用し過ぎだと思う」こうしている今も、おれは横目で西の胸の膨らみをこっそり見ているんです。 「信じるのはわたしの勝手です! もうっ、何回言えばわかるんですか!」西が半分怒って半分笑った顔で叫んだ。膨らんだ頬が、やわらかそうで、ふっくらとして、可愛かった。 「ハハ」自然と、笑い声を出すことができた。バス停が近づいていた。まだ、西と一緒にいたかった。 「……ねえ、西さん?」 「はい?」 「よかったら、このままどっかで遊んでいかない?」  香奈以外の女の子に、こんな誘いをするのは生まれて初めてのことだった。恥ずかしくて、断られたらどうしようと不安で、それでも、一緒にいてほしかった。やっぱり、穢れたものとして見られて、誰からも話しかけられなくて、おれが近づくと逃げるようにみんな離れていって、一人で学食で食事をして、そんな一日は辛かった。この辛さを、おれはあと半年以上味わわなければいけないのだった。そう思うと、耐えられなかった。壊れてしまいそうだった。誰かに助けてほしかった。守ってほしかった。 「どこに行きますか?」  西が、微笑んで言った。 「え? いいの?」おれは拍子抜けして言った。 「行かないんですか?」西が首を傾げた。 「いえ、行きます。はい」アホみたいな返事をした。何だか、西の前だと随分間抜けなことばかり言っているような気がした。 「じゃあ、行きましょう」少し先を歩いていた西が、次の交差点で左に曲がった。その先には、市の中心街がある。    西がおれと一緒にいるところを誰かに見られないようにと、二人でカラオケに行くことにした。個室に入ってしまえば、誰かに見られる心配は減る。  カラオケは、多田たちとは何度も来たことがあるが、女子と来るのは初めてだった。多田たちとカラオケに来ることは、二度とないのだろう。多田たちと麻雀をすることももうないのだろう。
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