第2章

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「あの噂は嘘だよ。けど、全部が嘘じゃない」おれは話した。真実を話した。おれが、エッチしないと死んでしまうかもしれないという馬鹿げた病気であること。香奈が、おれが死なないようにとエッチさせてくれたこと。多分それを誰かに気付かれて、噂が流れたこと。香奈を守るために、おれが香奈を襲ったけど失敗したという噂を流し返したこと。  西は時折眼を大きく見開いて驚きながらも、おれの話を黙って聞いていた。おれの手を握ったまま聞き続けてくれた。おれが真実を話しても、おれが最低の奴だということがわかっても、西は手を離さなかった。 「……こういう、ことなんだ。軽蔑、したでしょ? 信用し過ぎだったでしょ?」  俯いたまま、視線だけを上げて西の顔を見た。  西は微笑んでいた。 「山井くん、辛かったね」  その言葉を聞いて、おれはまた泣いた。声を上げて泣いた。おれの涙がおれの手に落ちた。たぶん、西の手にも落ちた。それでも、西はおれの手を握ったままでいてくれた。  部屋の入口近くの壁に備え付けの電話が鳴った。西の手を離すのは本当に残念だったけど、おれは立ち上がって受話器を取った。「お時間五分前です」 「わかりました」受話器を置いて、右手の甲で両目を拭った。 「そろそろ行こっか」さすがにもう歌う気にはなれず、西にそう声をかけた。 「うん」西が立ち上がり、ソファの端に置いていたおれのバッグを取って手渡してくれた。 「ありがとう」 「……ねえ山井くん」 「うん?」 「……病気が辛くて死にそうになったときは、わたしのこと、抱いてください」西は恥ずかしがったりはせず、しっかりとおれの目を見て、言った。 「え?」  え?  嘘、だろ?  おれがずっと想像の中で抱いてきた西が。西の大きなおっぱいがお尻が唇が女唇が。  いくらなんでも。  そんなの。 「い、いや、そんなの、それじゃ」香奈の申し出は受けて、なぜ西のそれは断る? 自分でも説明がつかない。理屈に合わない。狂ってる。おれは狂ってる。 「山井くんこの前数学教えてくれましたよね。だからそのお礼です」西が笑う。 「だ、だ、だめだよ。それじゃ、あんまりだ」理由は自分でもわからなかった。香奈と西で何が違うのか。香奈への感情と西への感情がどう違うのか。あの時のおれと今のおれがどう違うのか。 「わたしとじゃ嫌ですか?」
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