第2章

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 視線に気付いた西がおれを見る。おれの方がだいぶ背が高いから、どうしても見上げるような格好になる。上目遣いになる。上を向いた西の唇が、おれに何かを求めているような気にさせる。  かわいい。  そう思った瞬間に。  激痛が、前頭部に。痛い。いたい。いたいイタイ。  頭を抱えてその場にうずくまった。傘とバッグはおれの手を離れていた。雨が冷たい水がおれの頭を肩を顔を濡らしていく。地面についた膝が濡れる冷たい汚れる冷たい。痛い痛い痛い。 「山井くん!」西の声が、遠い。 「大丈夫? 山井くん?」おれの上に傘を掲げてくれたのだろうか、体を打つ雨の感触が消える。制服の中にTシャツの中に入り込んだ雨が背中を腕を胸を体中を伝う。あたたかいものが、おれの肩に置かれた。たぶん、西の手だろう。  しばらくの間、地面に膝をついたまま痛む頭を手で押さえていた。少しずつ少しずつ、痛みが、重みが和らいでいく。周囲の様子という外部の情報が、少しずつおれの脳に入ってくる。隣の車道を次から次とエンジン音が走り抜けている。西がおれの頭上に片手で傘をさしながら、しゃがんだ状態で右手をおれの左肩に置いている。しゃがんだ西のスカートの中が少しだけ見える。近くを通る人々が何事かと目を向けているけれど実際には何もせずに過ぎ去っていく。 「ああ」  おれは声を出し、顔を上げた。  目の前で、西が泣きそうな顔をしていた。雨でずぶ濡れになっていたからわからないけど、本当に泣いていたかもしれない。 「心配させてごめん」おれは笑おうとした。うまくできたとは思えなかった。 「大丈夫?」 「ああ」本当に大丈夫なのか、おれが教えてほしいくらいだった。 「救急車呼ぶ?」 「いや」何も知らない医者の所に連れて行かれるわけにはいかなかった。そうだ。電話すればいい。榊先生に話せば。  地面に落ちて濡れに濡れて黒く変色したバッグのチャックを開き、中から携帯電話を取り出した。数少ない着信履歴の中から、榊先生の番号を取り出した。まだ一度もかけたことはなかったが、ためらわず発信ボタンを押した。  コール音が鳴る。鳴り続ける。まだ止まらない。先生はまだ電話に出ない。
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