第2章

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「多田、おま、アホ、馬鹿なこと言うな」多田の冗談は、半分以上冗談ではなかった。今の声は、クラスの女子たちに、西に、聞こえただろうか。  おれが慌てふためく様子を見て、堤と栗原が腹を抱えて笑う。多田がおれの耳元で言う。「西、お前に気があるかもな。西、タイプだろ」おれはギクリとして背を伸ばす。多田と目を合わせた。多田は微笑んでいる。 「なになに、なに盛り上がってんの?」  おれより遅いバスで来たのだろう香奈が、隣の席にバッグを置きながら言う。 「お、桜木おはよう。聞いてよ、向志がさあ」と多田。 「おい多田やめろやめろ」おれは多田の口を塞ごうと手を伸ばす。 「なにすんだテメエ」おれの手をはねのけて多田が笑う。  ふと前を向くと、教室中のクラスメイトたちが、騒がしいおれたちの方に何事かと視線を向けていた。 「あー」帰りのホームルームが終わって担任が出て行ったのを見届け、おれは大きく伸びをした。  毎時間ごとに解答用紙が返って来る、騒がしい一日だった。教師に回答用紙を手渡された紙を見て一喜一憂するクラスメイトたちを傍観するのはなかなか寂しく、退屈なものだった。 「香奈、帰るか?」教科書をバッグに仕舞っている香奈に声を掛けた。先月までの香奈が新体操部の練習に明け暮れていたこともあり、これまで香奈と一緒に帰ることはあまりなかった。それなのに誘ったのは、あわよくばどこかでエッチできるかもしれない、そういう欲望があったからだ。 「あ、ごめん。今日は、銀行行く日だから」香奈は舌を出し、顔の前で手を合わせた。 「ああ、そうか。しかしお前、本当に好きだよな」香奈の趣味は貯金である。親父さんの給料日に合わせて毎月五千円のお小遣いをもらっていて、そのほとんどを翌日には銀行の口座に預けてしまう。おれと香奈の家があるのは市の外れのド田舎で、一番近い銀行のATMまででも歩くと三十分近くかかってしまう。学校の帰りに、市の中心街にある銀行に寄ってお金を預け、通帳に記帳するのが毎月この時期の香奈の最重要任務となっていた。どれだけ貯めているのか、聞いたことはない。 「趣味だからね。お金、あって困るもんでもないし」 「桜木って、なんか欲しいものあるの?」突然会話に入ってきたのは多田だった。実に楽しそうに微笑んでいる。戻ってきたテストの点がよかったのだろうか。
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