第2章

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 友人たちが帰っていく。楽しい時間が早く流れるというのは本当のことだと思う。そしてまた、一人の時間が泥のようにゆっくりと流れ始める。さきほどまでそこにいた香奈の脚が唇が西の脚が胸が、脳裏に浮かび消えずにとどまる。文庫本を再度手にとって読もうとするが、文字の群れはまったく頭に入ってこない。頭の中をいやらしい映像が占拠していて、それ以外の情報などまったく受け付けようとしない。入ってくる場所などない。文字の形さえ認識できない。ゲシュタルト崩壊。やはりおれは病気なのだ。男子色情症型脳血管攣縮症なのだ。  コンコンというノックの音がして、おれは少しだけ救われた気分になる。渡辺さんが薬でも持ってきたのだろうか。誰かと話していれば、少しは気が紛れるだろう。 「どうぞ」 「よっ」手を挙げて部屋の中に入ってきたのは、香奈だった。香奈が後ろ手でドアを閉め、鍵をかけた。 「どうした? 忘れ物?」おれは感づきながらも、期待しながらも、平静を装ってそう訊いた。 「うん、まあ、そんな感じ」ゆっくりと、恐る恐るおれのいるベッドに近づいてくる香奈。 「明日明後日、下田のじいちゃんばあちゃんのとこに家族で行くことになって」香奈が、バッグをベッドサイドのテーブルに置く。 「うん」 「だから明日はコウシの家、行けないから……」  おれは無言で次の言葉を待つ。 「……今日のうちに、あの、しておいてあげないといけないかと思って」 「それで、戻って来てくれたの?」 「うん」  そばまで来た香奈を抱きしめ、ベッドに引きずり倒す。 「ありがとう」覆いかぶさってキスをした。 「スケベ。変態。靴履いたままなんだけど」 「ごめん。病気なんだ」おれは笑いながら言う。笑い事ではないのだが。嬉しくて楽しくてたまらない。 「……病気が悪くならないようにだからね。死なないようにと思って、仕方なくなんだから」香奈が、おれの耳元でやたらと声を張り上げる。 「わかってる」 「……コンドーム、ある?」香奈が不安そうに言った。 「ああ。持って来た。バッグの中に」 「何で持ってんの?」 「いつ具合悪くなるかわからないから念のため」 「これだから頭いい奴は嫌だよ」香奈がちょっと、本当に怒ったような顔をした。 「おれが持って来てなかったらどうするつもりだったんだよ?」意地悪く訊いた。
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