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明くる朝まで、瑞希は透明化の術を習得する訓練を続けていた。その術の完成も登校時間直前で、瑞希はへとへとだった。
完成を見届けた優子は、二人に学校へ登校するように促し、自分は単独で事件の犯人らを捜索するために学校を休むことを告げて、窓から飛び出して行ってしまった。
残された瑞希達は、朝食も早々に済ませて指示通り学校へ向かうのだが、その朝食時から感じていたレナの立ち振舞いが妙に凛々しいことに、ハラハラする瑞希。
常識では考えられないことだが、この行動で両親に娘の中身が別人であることがバレるのではないかと、気が気でなかった。
朝っぱらから瑞希が不安と格闘するほど、レナの振舞いは爽やかさと気品のよさを垂れ流していた。
そんなレナがやらかしたのは校門でのこと。
級友が挨拶代わりに、後方からの飛び付き攻撃を仕掛けるといういつもの行動に対して、通常の瑞希らしからぬ行動をとったのだ。
レナは条件反射で普段の瑞希では考えられない速度の回避行動をする。当然、回避されたことで地面にスッ転んだ級友。その級友の後ろへ回り込み、反撃の体制をとる。
こともあろうに級友へ止めを刺そうとしたのだ。
攻撃直前になって、自分が現在女子高生であることを思い出したレナは、とっさにスッ転んだ級友へ方膝ついて手を差し出し、ゆっくりと起き上がらせ、おしとやかにするようにと注意しながら頭を小突いて、爽やかさ満開の微笑みでその場を誤魔化した。誤魔化したつもりだった。いや、周辺の人間に対しては誤魔化せたのかもしれない。
しかし、瑞希は絶句している。見逃さなかったのだ。一瞬、級友を抹殺しようとしたレナの本性を。それを級友から悟られないように取った漫画じみた行動を。先程から頬を赤らめ、胸をキュンとさせている級友の反応を。
そんなこともあって、この日は校門での出来事を皮切りに、華麗な立ち振舞いのレナと接触した学生達は、頬を赤らめて羨望の眼差しを送るようになり、その結果、影で「王子様」というあだ名が定着しつつあった。
その模様を見ていた瑞希は冷や汗が止まらない。身体が元に戻ったら、どのように生活していけばよいのか、と。
その日の下校時、レナへ文句を言い続けている瑞希は、少し涙ぐんでしまう。本当に元の姿へ戻れるのかという不安が、本当に元の生活を取り戻せるのかという恐怖が心を埋めていくのだ。
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