10年遅れのクリスマス

4/37
前へ
/37ページ
次へ
ーーーーーーー ーーーーー ーーー 「ここ?」 「そうよ、ここ。ベトナム料理だけど、現地でコックやってた人が開いたんだって」 「へぇ。しかしクリスマスイブにベトナム料理がいいとは、七穂(ななほ)らしいな」 「だってここ取材のときに味見してすごくおいしかったのよ」 「わかってる。今日もこの時間まで予約いっぱいだった」 「きっとそのお客さんの一部は、私の記事を読んだ人よ」 「だといいな」 そういって哲(てつ)は笑いながら私の肩を引き寄せて、店のドアノブに手をかけた。 さんざん何にするか迷って注文を終えたあと、哲は私の顔を見るとにやりとして小さな包みをテーブルに置いた。 「なにこれ?」 「ん、ちょっとね。七穂が気に入るかと思って」 サンタ帽を被った大きくて可愛い目をした、カエルのストラップ。
/37ページ

最初のコメントを投稿しよう!

554人が本棚に入れています
本棚に追加