第1章

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だが、生憎僕の視力はコンタクトレンズか眼鏡をかけ無ければ生活を送れないくらいに悪く、裸眼では何も出来ない有様だった。悲しいことに、数値にすると0,1も無いのだ。 視界も記憶も曖昧で。陽射しはこんなにも暖かいのに、世界から取り残されたようで、とても寒かった。 ただ、何となくではあるものの今いる場所は想像がつく。 白々しいまでに清潔感の漂う白い天井、壁、そしてベッドのシーツ。そして周囲を見やれば、同じようなベッドが三つ。そして、鼻腔をつくアルコールや薬剤、包帯や湿布などの織り混ざった独特な匂い。ここが病院だと気付くのに、そう時間はかからなかった。 なぜ、僕は病院にいるのだろう。一体、僕の身に何が起きたと言うのだろうか。やはり、よく思い出せない。 とりあえず、お腹が空いていた。そうだ、ついでに顔も洗ってしまおう。そうすれば、もう少しマシな思考になるはずだ。 僕はそう考えるとベッドから起き上がる為に腕に力を入れーー 「え?」 起き上がろうとした時だった。 右手が全く動かなかった。 仕方なく、今度は左手で起き上がろうとする。 「あ……」 だが、少し身体を浮かせることはできたものの、右半身が鉛のように重く、ガタンと音を立て、再びベッドの上に仰向けになった。 同じことを何度か試みるが、結果は同じだった。 血の気がさぁと引き、頭が真っ白になりそうで、もう少しのところでパニックに陥りそうだったが、「右手を枕にしていたから血の巡りが悪くなって痺れているのだろう」という自己完結により、それを回避した。 僕は麻痺から回復するのを待つことにし、医療器具の鳴り響く音や、職員や見舞客の足音や声をただただ聞いていた。 だが、心の何処かで分かっていた。 今の自分の体には、どうしようもないくらいに不幸なことが起きていて、それは、もうどうしようもなく、僕の人生を壊していることを。
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