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泣いた黒鬼
昔々、ある村にリングが有った。
いや、無かった。
何もかも、既に無かった。
「俺はとんでも無い化け物を呼び起こしてしまったのかも知れぬ…。」
赤鬼は見渡す。
荒れ果てた村々を。
嘗て家があり、畑であった荒れ地を。
先程猛威を振るった謎の怪物によって焼け野原となった大地を…。
「ああそうか…」
鬼とは情念。
恨み辛みが、青鬼の復讐心。
或いは仕込み試合の真相を知り得た村人達の憎悪が、夥しい暴力の体現となった姿こそあの黒鬼の正体だったのだ。
或いは、奴は俺だったのかも知れない。
「グロオォォ…!!」
黒鬼は倒れ伏し満身創痍の赤鬼に歩み寄る。
「へっ…殺れよ。お前に殺られるならば悔いは無い。」
本音を言えば術後の妹に会えないのが唯一の心残りだが…。
赤鬼はゆっくり目を閉じる。
黒い奴が棍棒を天高く構えたその時!!
「動くで無いわ、貴様ら!!
ふははははは!!
我は坂上田村麻呂である!!鬼共、成敗してくれるわ!!」
何と彼方より甲冑姿の武人が百の兵を率いて攻めて着たでは無いか。
「グ、グ、グロオォォ!!」
鬼達は退治される宿命。
百の兵が矢を放つ。
火矢である。
のた打つ黒鬼を騎馬隊が追い立て、槍でトドメを刺して行く。
哀れ。
あまりにも無慈悲なる討伐。
これにはさしもの黒鬼も泣くしか無かったとさ。
めでたしめでたし。
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