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廉は家の庭先で葉桜を振るっていた。彼女は毎日日課として、剣技の練習を行っているのだ。
あれから数日が経っていた。廉の身には特に何もなかった、力を制御できずに物を壊すことは多々あったのだが。
「しかし、思ってたより何も起きないものね‥‥‥。てっきり毎日忙しいのかと」
「まあ、すべての妖怪が人に危害を加える訳じゃないからな」
廉は剣を振るうのを止める。振り返って見ると縁側で圭がようかんを食べていた。
「はぁ‥‥‥、あんたねぇ」
「きちんと入り口から入ってきたぞ。それにようかんだって貰ったものだし」
「私が言いたいのはそういう事じゃないんだけどね‥‥‥」
圭はようかんを食べ終わると立ち上がり、
「そういや柳沼(やなぎぬま)市にちょっと野暮用で行くんだが」
圭の口から出た柳沼市、とは桜黎町の隣に位置する街だ。この街から電車などを乗り継げば東京にも行く事ができる。ビルが立ち並び人も多く近代的な都市、という感じを受ける場所であり桜黎町の人々も買い物や遊びでよく訪れている。
「そう、行ってらっしゃい」
「何を言っている?お前も一緒に来るんだぞ?」
え?という声を廉はあげた後、一気に顔を赤くし、
「ば、馬鹿!いきなりそんなこと言われたって……、いきなりデートの誘いなんて、私はまだ心の準備が……」
「いや、ちょっとした用事だし。それにもう1人ついてくるみたいだし」
その言葉に廉は固まる。そして怒りの形相で、
「はぁ!?ちょっと何よそれ!?」
「声がでかいぞ、それに何故怒る」
それは……と言いかけて廉は止める。自分の思いこみとはいえ圭と2人きりでデートに行けるんじゃないかと思っていた、それを悟られたくはなかったからだ。
いやー、恋する乙女ですなあ(by作者)
「まあ、とりあえず結さんに呼ばれてるし、雑事堂に行くか。早く準備してこいよ」
そう言うと彼はさっさと玄関へと行ってしまう。
「え、えー……。何よそれ」
そう言うと彼女は彼について行こうとしたが、ふと自分の格好を見る。剣の鍛錬の時に着る胴着、さすがにこの格好では町を歩けない。
(まったく、こちらの都合も少しは考えてよ……)
廉は着替えるために家の中へ入っていった。
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