本編

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 影が大きい。です。  黒いエプロンに黒いサングラス。染料を使って上塗りしていると思われる真っ黒なオールバックヘアー。  加えてその表情も真っ黒と言えるほどに無愛想。  モダンな配色パターンを意識しているのか、店内も黒が基調だった。  更に体格は筋肉質で、習慣的に運動しているのか肌の色も黒々しく、そういえば店の名前も「BLACK」だったことに気が付いた。    駅から徒歩96分の喫茶店BLACK。コーヒーにクリームを入れる事さえも許されなさそうな、このカラスの濡れ羽色の空間に私がいる理由は他でもない。  日常的に殺し屋とその依頼者が出入りしているとの情報を入手したためである。 私は探偵業を営んでいる。探偵業と言っても絵にかいたような殺人事件なんて起こりやしないし、起こっても私の出る幕はないだろう。  主に浮気現場の調査が仕事である。世界から土木仕事が消えても音楽CDの需要がなくなっても感情の交錯は消えない。  ハッキリ言って裏業界の知識など皆無だし、万が一ドンパチが勃発したら生き残っている自信はない。ただ、ロマンというのだろうか。一寸でも非日常的な世界に足を浸けてみたかった。  幼き日にイメージした探偵業を実現するために。  肌が、ぴりと研ぎ澄まされた。
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