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少しだけ、抱きしめてあげよう。薺が安心するなら、こんなことでいいなら。
俺が腕に力を入れようとした時、薺は俺の腕をすり抜けて、再び背を向けてしまった。
「ありがとう、もう平気。」
無理してるのかな?そんな感じがする。
「ゲートを閉じるには、どうしたらいいの?」
はっとした顔で俺を振り返る薺。
「ダメ!蔵だけでゲートに飛び込んだら、その加重だけで全身バラバラに砕け散るよ!」
でも、このまま放っておくことなんて出来ない。これが最後みたいな言い方されたら、黙って帰るなんて出来る訳がない。
「やってみなくちゃ、分からないだろ。学校は、行かない。だから、1か所付き合ってくれないか。夕刻前までには、必ずゲートに戻ろう。」
俺は、実は少しホッとしていた。薺にも、人間らしい一面があるんだって、分かったからだ。誰しも完璧な人はいない。だからこそ、俺は、俺にしかできない形で、薺をサポートしてやりたいと思えるんだ。
「心当たりがあるの?バディの、居場所に。」
「ああ、でも山の中なんだ。ちょっと歩くけど、平気?」
聞くまでもないという顔をされた。ツンデレだな。俺は、思わず吹き出してしまった。薺はムッとした顔をしている。
「お前今、笑ったでしょ!?」
「いや、笑ってないよ…。」
「嘘だ!お前絶対笑った!何よそれ、何なのよー!!」
「お前じゃないって、蒼真だよ。」
「名前なんかどうでもいいー!」
遭ったばかりの子と、こんなに親しくしている自分が、とても不思議でならない。同じ境遇の人物と出会えたことの喜びからなのだろうか?でも、そんなことはどうでもよかった。笑っている薺を見ているだけで、俺まで顔が自然に綻んだ。
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