0人が本棚に入れています
本棚に追加
「お前、まだ揺らいでる。死を認めたくない気持ちは分かるけど、このままでは、バディを見つける前に、お前の体が崩壊するわよ。とにかく、その場所にすぐ案内して。」
これだ、この暖かさ。薺は、まだ出会って間もない俺に対して、とても暖まる発言で心を癒してくれる。一言の暖かみを感じたことなんてあまりなかったが、この子からはどうしてか感じるんだ。それが、この子の持つ、海のように広い心なんだと、俺は信じていたかった。
そんな談話も長くは続かなかった。坂道を登り始めたあたりから、薺は何らかの異変を察知していたのだ。
「どうも様子が変だわ…。この気配、神の御霊のものとは程遠いものよ。ここは、いったい何なの?」
薺は一変して、研ぎ澄まされた刃のような鋭い目つきへと変貌を遂げる。
「実は、昨日登校する途中、この場所で自転車が転倒して、大怪我したはずなんだ。ところが、気を失って目覚めると、そこは学校の教室だった。その一件から、周囲と自分の記憶に食い違いが生じ始めた。俺の中の記憶が、まるでなかった事のように処理されてるんだ。信じられないような話だけど、本当のことなんだ。」
薺に鼻で笑われるような気がしていたが、そうではなかった。
「なるほど、だいたい分かった。お前がバディを受け入れられなかった理由が。お前自身に問題があった訳じゃないんだね。」
薺は、何かに気がついたようだった。しかし、だったら俺にも教えてほしい。むしろ、俺が、一番聞く権利のある人間なはずだ。
「何か分かったなら、俺にも聞かせてくれないか?」
最初のコメントを投稿しよう!