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「あ、櫻井君。散歩なんて珍しいね?もう体調はいいの?」
蒼井は、周りへの気遣いがあり、いつも誰かのケアをしているイメージのある子だ。俺の心配もしてくれるんだな。なんだかちょっと照れ臭い感じがしたが、今の目的を思い出した。
「ああ、ちょっと早く目が覚めたからな。蒼井は、いつも散歩してるの?」
白い息を吐きながら、その場で足踏みをしている蒼井。やっぱり女の子だ。
「うん。そうだよ。マックスの散歩コースになってて。」
なるほど、いつもここを通っているなら、蒼井も何かを見たかもしれないな。それとなく、質問してみることにしよう。
「この林道で、最近誰かを見た、何てことは、ないかな?」
確証がある訳ではなかったが、あれはなんとなく、ただの夢じゃないように思えた。たぶん、俺の身に起こったことに関連があるように感じていた。
「んー、たまにみるけど、近所のおばさんが枯れ葉の掃除に来たりしてるくらいかな?なんでそんなこと聞くの?」
まあ妥当な回答だ。予想はしていたけど、俺の望んでいた返答とはかけ離れたものだった。
「あたし、帰ってマックスのご飯準備しないとだから、また学校でね。」
「あ、ああ。引き止めちゃってごめんな。気をつけて。」
蒼井は息を切らしながら、小走りにその場を去って行った。去り際にブラウンに染められた髪が靡き、フルーティーな香りが俺の鼻を擽った。
さて、問題の区間に辿り着いた。俺はまず、あの気配のあった方向に目をやった。野性的本能が目覚めたのかと思うほどに、あの時ははっきりと、正確に気配の方向を察知したのだ。しかし、今はその気配どころか、野良猫一匹見当たりはしない。
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