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もう少し歩を進め、自転車の事故現場付近に差し掛かった。この辺は、たまにしか通らないため、風景すら見慣れてはいないが、あの転倒の瞬間は、まるでスローモーションのように鮮明だった。小さな段差も、はっきりと俺の目に焼き付いている。
確か、この坂を登り切った先の、下り坂に差し掛かる地点に、その現場は存在するはずである。そして俺は見つけた。あの時乗り上げた、道路の段差だ。同時に核心たる感情も沸き立っていった。あれは夢なんかじゃなかった。俺は、俺は、ここで倒れて…。
何故だろう?悲しいのか、嬉しいのかわからないが、涙が頬を伝う。この事実が確認できたことは、俺にとっては大きな躍進のように感じた。
帰り道、俺は、昨日の公園の方へ大回りするルートを選択した。ここでの出来事も、かなりリアルで忘れがたいものだった。もしかしたら、また薺に会えるかもしれない。そんな気もしていた。夕刻まではまだ時間があるが、早く、もっと詳しいことを聞きたくて仕方がなかったというのが本音だ。
公園近くの高台からは、この町を一望できるスポットがある。俺はそこまでたどり着くと、すぐ真下に見える公園に目をやった。
「いるわけないよな…。」
彼女は昨夜どこで一夜を明かしたのだろう。ちゃんと家があるんだろうか?そんな他人の心配をしている自分に気づき、俺は首を大きく横に振った。
だいたい、あの後、時が止まったはずのこの場所は、どうやって元通り戻ったのだろうか?薺は、俺がやったと言っていたが、俺にそんなことが出来るはずもない。俺は、彼女とは違う。生身の人間なのだから。
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