0人が本棚に入れています
本棚に追加
のんびりもしていられない。そろそろ自宅へ戻り、登校の準備をしなくてはならない。このモヤモヤを胸に抱いたまま、一日を過ごさなければならないと思うと、心底嫌な気持ちになった。
「あたしに会いに来た、何てことはないよね。」
背後で声がした。昨日のあのどこか落ち着く声、薺だ。俺は、驚きのあまり、若干逃げ腰に後ろを振り返った。
「薺ちゃん、急に声かけられてビビったよ。いや、会いに来たというか、まあ、それに近い理由だけどね。」
ふーん…、とでも言いたそうな素振りを見せ、俺の周囲をぐるりと一周回ってくんくんと犬のような仕草をする薺。なんて可愛らしい事するんだ。俺は、少しドキドキしてしまった自分が恥ずかしくなった。
「ねえ、ちょっとだけ付き合わない?」
「えっ!?」
薺は言うなり、俺の右手を掴んで港方向へ駆け出す。家とは真逆の方向だ。
「ちょ、まっ、俺、学校が!」
聞いていない。外見以上に自己中なとこあるんだな。俺はそう感じながらも、まんざらこの展開が嫌ではなかった。
「お前に見せたいものがあるの。見えるかどうかは知らないけど。」
やはりそう言う事か。一瞬でも、期待していた俺が浅はかだった。それでも、彼女がこうして俺に何かを伝えようとしてくれていることは、うまく言えないが、悪い気はしなかった。
最初のコメントを投稿しよう!