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「ひとつだけ言っておくわ。バティを受け入れるということは、イコール、お前自身の死を受け入れるということよ。せいぜい今から心の準備をしておくことね。」
なんだよ、ずいぶん冷たい言い方するんだな。それに、死を受け入れるって、どういう意味だ?
「俺?もうすぐ死ぬの?知ってるんだろ?教えてくれても…。」
「そのうち解かるわ、嫌でもそのうち…。」
薺は目をそらし、続いて俺に背を向けてしまった。今は、これ以上聞いてはいけないのかもしれない。まだ聞きたいことはたくさんあるけど、彼女を困らせたくはない。そう判断した。
「じゃ、そろそろ帰るよ、学校あるし。」
「学校ねぇ…、のんきだね。」
薺がクスリと笑う姿は、後ろ姿からでも十分可愛く映った。
「そんな言い方するなよな。あ、そうだ、薺ちゃんて、この町に住んでる訳じゃないよな?最近越してきた、とか?」
質問の意味が分からなかったのか。薺は俺を振り返って渋面を作っている。
「あたしに家なんてないのよ。お前も、すぐにそうなる。だから、覚悟が必要だって言ってるじゃない。」
そうか、そうだよな。やはり俺はもうすぐ寿命だって事か。短い人生だったな、やり残したことも多い。やり残したといえば、サッカー日本代表になるのも、夢で終わっちゃったんだ。
よし、いつ迎えるか分からないけど、その時は覚悟を決めよう。予め知らせてくれた薺の気持ちを汲んでやらないと。
「それじゃ、また夕方、あの公園で。」
薺の機嫌をこれ以上の損ねてはならないと思い、この場は退散することにした。慌てて何かを聞き出そうとしてもダメだ。相手の立場も考えないと。正直な気持ちだった。
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