第1章

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 時国が真っ赤になっていた。ビルの中に庭。ひっそり生える雑草。森の本当の奥は、ビルにあるのかもしれない。自然から切り離されているようで、自然からは逃れることは出来ない人間。 「役に立てて、嬉しい」  壊れずに時国が喋っていた。  それから一時間程、時国も交えて、冬樹の再生方法を互いに論じていると、興野が迎えに来ていた。 「お邪魔しました」  時国の家を出ると、二人の男が待って居た。 「この二人は、俺が護衛官だった時の同僚で、桜井と宮野。他の三名は、この二人をサポートしている」  歩きながら、興野が説明する。 「家の中でも、この二人は居る。もう、暫く同居だと思え。北見には落ち着くまで来るなと言ってある」  エレベータの内部を確認して乗り込む。 「冬樹のところには行ってもいいか?」 「構わない、しかし、この二人は常に居るからな」  落ち着くのはいつになるのか分からないので、計画を変更することなく進めたい。だから、冬樹のところへは行きたい。やっと、目覚めさせる算段ができてきたのだ。この機会を逃したくない。 「桜井さん」  背が高く優しい顔立ちの青年だった。 「宮野さん」  がっちりとした体格の、体育会系の青年だった。 「よろしくお願いいたします」  二人に頭を下げる。 「こちらこそ」  北見の機械の軍部への搬入が住んだとの連絡を受け、冬樹に会いに行く決意を改めて行う。兄二人に連絡を取り、許可も得た。  下りのエレベータに乗ると、地下には軍部しかないせいか、制服を着た者だけになった。  更に地下に向かい、冬樹の眠っている実験棟の前まで来た。近くに華菜も眠っている。あの日のままに時の止まっている二人だった。 「行くぞ北見」  セキュリティを通過し、冷え切った部屋に入る。他の研究員は、今日は来ていない。  部屋には幾つもの筒状の水槽が置かれ、その一つに冬樹が眠っていた。腕も、足も無く、内臓も欠けていたが、内臓は再生医療で復帰している。今、水槽から出たとしても、最低限自力で生きてゆかれる機能はある。  手足の再生は出来なかったが、そこにはプロの北見の力を借りる。 「水を抜くと、起きるのか?」 「水の中で起きてから、水を抜く」  電気を流して起こせと、マニュアルには在ったが、そんな可哀想なことはできない。 「起きろ!冬樹、遅刻だ!」
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