第1章

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 蔓種の繊維に微弱な電気を流し、義手の神経とする。動く事は確認できたが、操作まではまだ時間がかかりそうだった。  片方の腕だけで、一万本を超える繊維の本数を使用したのだ。簡単に操作できない代わりに、どこまでも繊細に動く筈の義手となっていた。 [友秋、ごめんな。留守、守れなくて] 「冬樹、俺だって家族守りたかったよ。居なくて、ごめんな」  また涙が溢れる。又、冬樹が涙を拭おうとしたので、今度はすかさず逃げた。 「リハビリのスケジュール出しておくけど、医師は居るのここ」  病院ではなく、研究所だった。俺達は、冬樹が病室に移るまでを確認し、それぞれ家に帰ることにした。  家に戻ると、興野が酷くピリピリしていた。居ることに慣れてきた桜井と、宮野が横を向いている。興野がピリピリしている理由を知っているのだろう。 「加賀谷が誘拐された。しかも、運悪く、死体で発見された」  どうして加賀谷が?何故、興野がピリピリしている?共通事項は、俺の多分免疫だろう。俺は加賀谷に免疫を渡してしまった。 「これで、感染された免疫では売買対象にならないと知れ渡っただろうけど、他には誰だ?」 「時国と、北見」  直ぐに、桜井がどこかに連絡していた。こんなことになるなんて、想像もしていなかった。 「表面上は、加賀谷は事故死になる。学校では影響が大きいので、事実は絶対に口に出すな」  友人が亡くなったというのに、真実も言えない。しかも、原因は俺だ。 「ワクチンはいつ出来るのか…?」  俺は自分の誤りに、一つ気が付いた。キスで免疫が伝染する、そこからワクチンの成分を割り出すのは後にして、唾液の中の成分を培養すれば良いのではないか。   大量生産出来るようになれば、俺の価値はない。  俺は、急いで時国に電話をかけた。 「時国、唾液は培養できるのか?」  この一言で、時国は俺が何をしようとしたのか、理解してしまったらしい。 「そのまま使えか。それもいい。出来るよ」  時国は、そのまま電話を切ってしまった。きっと、頭の中は、図式で一杯になり、言葉にまで気が回らなくなってしまったのだろう。  このことに気が付いていれば、加賀谷を死なすことは無かった。後悔しても、時間は戻らない。 「桜井さん、宮野さん。もうすぐ任務完了かもしれないので、今日は一緒に鍋にしましょう」  興野の秘蔵の焼酎と、ビールを隠し扉から出してきた。 「それは…」
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